「困ったときは大阪モノを狙え」とか「演歌は大阪から」…
―誰が言ったか知らないが歌謡界にはこんな伝説的な言葉がある。しかし、市場が冷え切っている今の歌謡界の中にあってはもう死語に近い言葉になりつつあるが、最近またまた「大阪モノ」にスポットが当たっている。大阪には道頓堀、心斎橋、通天閣等、浪花八景と言われる地名が存在するし、大阪から全国ヒットした作品も枚挙にいとまがない。つまり大阪が全国ヒットへの試金石であることをしっかりと証明してきた。庶民的な風土が演歌と言うジャンルを馴染みやすくしてくれた土壌だと理解する。また、本物を見抜く目と耳を持ったファンの価値判断も見逃せない。

前置きが長くなったがここにきて大阪モノが何作か発売されている。日本クラウンから7月5日に発売された山口かおるの「泣かせて大阪」(作詞:仁井谷俊也/作曲:徳久広司/編曲:前田俊明)、8月16日にテイチクエンタテインメントから発売されたKenjiroの「大阪レイン」(作詞:みやま清流/作曲:杉本眞人/編曲:川村栄二)、同、男石宜隆の「大阪ひとり酒」(作詞:円 香乃/作曲:大谷明裕/編曲:伊戸のりお)。

山口は青木香織の芸名から名前を変え新たな挑戦に挑む今年歌手生活25周年の中堅歌手で、独特のハスキーボイスがウリだ。ヒットメーカー・徳久広司のアルバム「愛しき歌たちよ」からのシングルカットで、大阪を舞台に男と女の恋物語を歌った歌謡曲に仕上げた。ハスキーボイスと言えば「大阪暮色」で大ヒットを飛ばした桂 銀淑(ケイウンスク)が浮かぶが、山口はその「大阪暮色」を歌ったのがデビューのきっかけでもあった。「同じ声は2人もいらない」と言われたらしいが、もう来日することはないだろう桂に代わって再びハスキーボイスの存在感をアピールしてほしいね。
Kenjiroの「大阪レイン」は、これまたヒットメーカー・杉本作品に再度挑戦したお洒落いっぱいのラテンミュージック。シンガーとして安定感を更に増した彼のこれからに期待したい。大阪は彼の出身地でもあり活動の拠点でもある。
メジャーデビューの前から後援会の組織にしっかりと支えられてきたのは男石。前作の「大阪泣かせ雨」に続く大阪モノで勝負に出た。新曲は大阪シリーズの第2弾となるが、テンポ良く耳馴染みもいいカラオケファン必須の作品と見た。

かつての大阪モノはどちらかと言えばドの付く演歌がその多くを占めてきたが、最近の傾向は演歌から歌謡曲志向へのシフトが顕著。匿名を条件に最近の大阪モノについてある作家は「確かに大阪モノはヒットの確立は高いしこれからもそうあってほしいと願っている。大阪には演歌好きも多く業界人にも旗振り役がいた。ただCDショップが激変しているなど市場環境は年々厳しくなっている。大阪と言えどもこれからはそう簡単にはヒットは生まれないだろう。ユーザーがどんな作品を求めているのか今一度リサーチする必要もあるだろう。」と分析する。つまり、待っている人にいい作品を提供できなかったと言う反省もあるのだろうと理解したい。歌い手は誰もが前向きに取り組んでいる。誰でもいい業界にドでかい風穴を開けてもらいたいネ。

文:金丸