【連載】流行歌さんぽみち vol.16 田川寿美コンサートにて―
合間に楽屋を尋ねた。開口一番彼女から「お久しぶりです、お元気でしたか」―そんな挨拶程度の会話だったが、その整然とした話しっぷりに「成長したなぁ・・」と。当方歌世界に約45年お世話になっている。色んな歌手との付き合いがあり、今も行き来のある歌手は多いが、中には特別に気になる歌手も何人かいる。その1人が田川寿美だ。縁があり所属のコロムビアの宣伝マンから地元和歌山で開催した彼女のデビューコンサートのステージ写真を頼まれた。その時の写真はもう手元にはないが会場の最前列から必死にファインダーを覗き彼女の一挙手一投足を撮ったことが懐かしい。その彼女ももうデビュー26年と中堅の域に入った。当方、第一線を離れて以来、彼女と会うのはほんとうに久しぶりだった。彼女の活躍ぶりはせいぜいテレビの歌番組で見るくらいだったが、数十年ぶりに見た生のステージに感動した。熱唱する姿は勿論、一句一句歌への思いを説得力ある言葉で伝える姿に思わず目頭が熱くなった。
デビュー当時は女性演歌界の次代を担う逸材としてマスコミは騒いだ。デビュー早々の彼女は赤いリンゴの様なほっぺだったし、マネージャーに寄り添ってニコニコしながらキャンペーンに奔走していた彼女の姿は今も鮮明に覚えている。そんな彼女も一児の母親で歌手と子育ての二足の草鞋を履いている。
コンサートでは最新曲の「心化粧」からデビュー曲の「みれん海峡」、そして自ら1つの転機になったという「女人高野」などオリジナルのほか、同じコロムビアの大先輩で今年生誕80周年、没後30周年の美空ひばりのヒット曲などを丁寧にそして豊かな感性で約1時間のステージをこなした。歌とお喋りで温かく観衆を包み込んでいく様は期待を裏切ることなく完璧に近いステージだった。
歌は勿論、同時に感動したのが曲間でのお喋り。作品のこと、故郷(和歌山)のこと、人との出会のこと・・・等々、そんな美談を聞きながら当方「うんうん」とただただうなずくばかり。多分、客席で周りを憚らず「成長したなぁ~」と呟いた声はきっと弾んでいたと思う。
彼女のお喋りをここに是非紹介したい。
歌手・田川寿美のこと・・・。
「私の歌には海をテーマに男女の別れを歌った作品が多い。ちょっぴり切ないと思う事もあります。26年も歌っているといい時もあれば悪い時もありました。そんな時に心にポッカリと穴があいたこともありました。歌手である以上、結果を出す事が必要です。何年経っても新鮮な気持ちで自分のペースで皆さんと向き合っていきたいのが夢です。今、とっても充実した毎日です。」
故郷への思い・・・。
「故郷へ帰ると近所の人が優しく接してくれます。そんな時、故郷は遠くなっても変わらない愛おしい存在だと痛感します。日本の四季の変化と人の心が重ね合うように思います。故郷で初めて覚えたのが「北国の春」でした。」
出会い・・・。
「これまで色んな出会いがありました。デビュー26年経った今も新鮮な気持ちで色んな方と向き合ってます。今日皆さんとせっかく出会ったのですから一緒に歩いて行きましょう。日本人が本来持っている繊細で人を思うそんな思いやりを大切にしたいです。」
弱冠15歳で上京。「明日も頑張ろう!」と心に誓い厳しい歌謡界の中で相当な葛藤があったに違いない。そんな中、「強い意志」と「感謝の念」を持って事に向かっていると想像する。
そんな彼女の美しい言葉を聞きながら「美辞麗句」だねぇ~そんな言葉がふと頭をよぎった。