「皆さんの笑顔が見たい…」ステージからそんな言葉を会場一杯に埋めた観衆に向け微笑んだのは演歌界の若きトップランナーに躍り出た日本クラウンの三山ひろし。5月26日から6月4日まで大阪・新歌舞伎座で初の座長公演「三山ひろし特別公演」を行っている。

芝居と歌の2部構成で、芝居では想像もしなかった女形も披露する3役に挑んだ。また、オンステージでは代表作になった「四万十川」や最新作の「男の流儀」(作詞:石原信一/作曲:中村典正/編曲:丸山雅仁)は勿論、長編歌謡浪曲「俵星玄蕃」にも挑戦するなどファン必見のステージとなった。1日の夜の部を観た。

午後5時。1部の芝居「若様弥次喜多七変化」の幕開け。長屋に母親と住み、隣の親友と暇を見ては旅に出るという気ままな生活を送る下町のお兄さん(弥次六)に扮しているさなか突如、騒動に巻き込まれるーそんな設定。ほのぼのとした三枚目役だが女形など立派な役者ぶりを見せたほか、劇中でももう特技となったけん玉を披露、会場からは拍手喝喝采を浴びるなど芸達者なところを見せた。
休憩をはさんでの2部は真骨頂の歌のステージ。出身地でもあり観光大使も委嘱されているという土佐の「よさこい-」でオープニング。「お岩木山」、「四万十川」、そして「今年もこの新曲で年末の紅白を狙います」と3年連続のひのき舞台を目指したいという新曲「男の流儀」などのオリジナルのほか、沢田研二の「勝手にしやがれ」といったカヴアーも披露したが、何といっても圧巻だったのが身振り手振りで挑んだ長編歌謡浪曲「俵星玄蕃」の熱唱ぶりだった。本家本元の三波春夫(故人)の娘さんに歌唱指導を受けたという。

新歌舞伎座初座長というプレッシャーもあっただろうが、芝居も歌もそんなプレッシャーなどみじんも感じさせないハツラツとしたステージだった。そんなステージを観ながらふと感じた事は三山の豊かな感性もあるだろうが、義父であり三山の作品を書き下ろしている作曲家・中村典正氏が三山の特長をしっかりと掴み作品に反映させていると確信した。演歌にありがちな濃い目の味付けをあえて避け中音を生かした音作り、昭和の匂いを残しながらの旋律、温もりのある声等々、どれをとっても合格点であることを今回のステージで改めて認識した。演歌界は依然厳しい。古典的でオーソドックスな演歌も必要だろうが、平成の時代にふさわしい演歌もいる。三山にはその先駆者になってもらいたい、と願ってやまない。

来年7月には同劇場での座長公演がもう決まった。楽しみだ。

文:金丸